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iPadと第20回総会


平成22年6月、青年部広報委員長(副会長) 小川頼之


 5月にiPadが発売され、近頃世間はデジタル書籍元年とかでやたら騒がしい。一昨年からデジタルのことばかり考えさせられている我々にとって「今更何騒いでいるの、落ち着けよ!」というのが正直な感想だ。
 確かに画像処理については最高級なものを使っている様で、表示中の画面も含めた全体のデザインが非常に良く、素人はとびつくだろうと思う。しかし、iPadの画素数はパソコンの15インチディスプレイと同じ。我々から見れば単にキーボードとマウスがない小型パソコンだ。
 どんなに画像処理を頑張ってみてもiPadで表現できる内容には限界があるし、デジタル本には「所有」する満足感はなく、折ることも書き込む事もできないし、書斎を造って見せびらかすこともできないのだ。紙の本の方が豊かでデジタルは貧しいのですよ。皆さんお忘れなき様に!
 そうそう、総会の話題でしたね。私が青年部の総会や新年会のご招待に係わることになって既に3年、計6回こういった会を開催しているが、今回程出席率が高かった会は始めてだ。返信の8割から9割が出席!。デジタルへの関心の高さがそのまま青年部総会懇親会の出席率に反映したのだと思う。青年部のこれまでのデジタルへの取り組みが評価されたものと前向きに解釈しておきたい。
 総会では信愛書店原田さんから青年部のデジタル書籍への見解を求めるご質問をいただいた。いくらデジタルに強い青年部とはいえ、さすがに統一見解を出せる訳ではないので、私個人の意見としてお答えするしかなかったが、次の様に答えさせていただいた。

  1. 本や雑誌1点1点についてデジタル向けのもの、紙本向けのものがあり、その売り方は編集者が紙の大きさや質、印刷品質などを決めるのと同様に選んでゆくべきものと思われる。
  2. 紙の本の内容は必然的に内容の濃いもの、1生持っていたいもの、高品質印刷により読者の感性に訴えるものへシフトせざるを得ない。
  3. つまりはダイヤモンドや東洋経済はデジタル向けといわざるを得ないが女性誌は表現力不足によりデジタルではまだ無理。
  4. リアル書店にもまだまだやれることはある。青年部のホームページ網と店内在庫開示が全国全店に普及すればリアル書店の売り上げの底上げが見込めるはず。
 この場では申し上げられなかったが、考えて見れば掘り出し選書の様に版元と直接やりとりして棚をショールームとしてお使いいただく様なやり方で棚をデジタル化しにくいものに変えてゆくのも強力な対抗策になり得る様に思う。
 懇親会の中締めでは僭越ながら私がデジタル書籍前夜の業界の状況についてしゃべらせていただいた。奇しくもGoogleブック検索問題は現在、日書連もメンバーとして参加する三省デジ懇(「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」)に発展し、国を挙げて検討されているが、日本がこの様な方向に舵を切った一因として業界が垂直統合のアメリカと違い、日本が水平分業モデルであったことがあるという。しかし、水平分業の中心となってそのインフラを担っていた取次が誤った垂直統合に向かってしまっていたのがデジタル書籍前夜の業界の現実ではなかったか?。デジタル化について考えるというのは業界の矛盾について考えることと実は同じで、今までの悪しき風潮についても赤裸々にしてしまう。すなわちデジタルについて考えたら業界が間違った方向に向かいそうだったことが解ってしまったのだ。大日本グループも日販グループもNET21もみなつまるところ垂直統合を目指した動きだ。そして水平分業モデルの核となるのは組合しかない。組合なら国だって動かせる。
 私はそれぞれのグループのリーダーの方も含めて一緒にデジタルについて考えてゆきたいと思っている。それがリアル書店を元気にする一番良い方法な気がしているから・・・。


(本原稿は2010年7月発行の東京都書店商業組合会報「東京書店人」原稿をそのまま転載したものです。)